認知症の代表的な症状の1つに徘徊という症状があります。
この徘徊という症状では、一緒に暮らしているご高齢者が、ご家族の気が付かないうちに家の外に出ていってしまったり、家から離れた場所まで歩いて行ったものの、今自分がいる場所がどこなのかわからなくなるなどが原因で、自分では家に帰れなくなるなどが多々起こります。
このようなことが起きると、本人の行方を捜すために、近隣の住民や警察の力を借りる事態にもなる場合があり、そのような事態に対応するご家族には、精神的にも肉体的にもとても大きな負担となります。
昨今1人で自宅を出てから、そのまま行方不明になってしまう認知症のご高齢者の数が年々増加しているのをご存知でしょうか。警察庁の発表によると、2017年の認知症の行方不明者数は、なんと15,863人とのことです。
そのうちの約7割以上のご高齢者が早期に発見をされているそうですが、たとえわずかな時間であったとしても、行方不明になったご高齢者の行方を捜すご家族は居ても立っても居られないでしょう。
しかし、徘徊とは、認知症のご高齢者がただ、意味もなくウロウロと歩き回っている。そのように思われる方も多いと思いますが、実は徘徊をするご本人には徘徊をする理由や目的があるのです。
そこで今回は、介護する方にとって、大きな負担ともなる「徘徊」について徘徊が起こる原因や、特徴的な徘徊の症状などについてご紹介します。
なぜ徘徊が起きるのか?その原因は?
昨今、認知症のご高齢者による徘徊がニュースなどで多く取り上げられています。
これは先ほど、書き出しの章でもお伝えしましたが、警察庁の発表によると、2017年の認知症の行方不明者数は、なんと15,863人とのことです。またこれに関連して、桜美林大学老年学総合研究所の調査によると、ご高齢者が徘徊などが関連した行方不明から、発見までに5日間経過すると、生存率が「0%」となるという結果も出ているそうです。
さらに、これ以外にも、自宅に戻る途中で線路に入ってしまい踏切事故が発生したり、道を渡る際に信号を確かめずに道理に飛びだし、交通事故にあったりなど、徘徊が原因となる痛ましい事故も数多く発生しています。
では、なぜこのように、一歩間違えれば大事故にもつながりかねない徘徊を認知症のご高齢者はするのでしょうか?
もしも、徘徊をしてしまうのには原因があるとしたら・・・
そこでここからは徘徊が起こる原因について解説してみようと思います。
そろそろ自分の家に帰らないと・・・
認知症のご高齢者の中には、今住んでいる家が自分の家だと認識できていない場合があります。
自分の家は、子供のころに住んでいた家の記憶になっていて、自分の家に帰るために外に出たが、どこにいるのかわからなくなり、徘徊してしまった。これは、自分が今いる場所がどこなのかわからなくなる「見当識障害(けんとうしきしょうがい)」という認知症の症状がかかわっている場合もあります。
※見当識障害(けんとうしきしょうがい)とは?
「引用元:看護のお仕事 ハテナース」
今から会社に行ってくる!
すでに定年してからかなりの年月が経っているのに、退職したという過去の事実をすっかり忘れてしまっていて、会社に行くために外出しようとする。会社に行くと言って、外出したが家に戻れなくなり徘徊してしまう。
このような、過去の出来事や自分の年齢を忘れてしまうのは「記憶障害」という認知症の症状が深くかかわっている場合があります。
※記憶障害とは
「引用元:公益財団法人 健康・体力づくり事業財団」
理由は上手く言えないが、ここに居たくないから・・・
今日の日付がわからなくなった。今、自分が何をしようとしていたのか思い出せない・・・。
家の中にいることで落ち着きが無くなったり、人によってはパニックを起こし、外に出てしまう。
外に出たが、なぜ自分が外に出たのかも忘れてしまい、結果、徘徊してしまう。
このような症状は、認知症の記憶障害が原因の1つになっている場合もあります。
家族の顔を見ても、誰だかわからなくなり・・・
普段、顔を合わせている家族の顔を見ても、それが誰だかわからない。家族の名前も思い出せない。このようなことが続き、結果「ここは誰か知らない人の家だから、自分の家に帰ろう」と家の外に出てしまう。家の外に出て、自分の家を目指して歩いてみたが、どこにいるのかわからなくなり徘徊してしまう。
これには認知症の症状である、「記憶障害」や「見当識障害」がかかわっている場合があります。
家の中に何か変なものが見えるから・・・
認知症のご高齢者の中には、ありもしないものや、私たちには見えないものを見えると訴えることがあります。この症状を「幻視・幻視(げんかく・げんし)」と言います。
※幻視・幻視(げんかく・げんしとは?
「引用元:ウィキペディア」
この「幻視・幻視(げんかく・げんし)」では「さっき、知らない誰かが部屋に入ってきた」「天井に虫がたくさんいて怖かった」など、ありもしないことや、一般の人には見えないものを見えたと言って、怖がったりパニックになることもあります。
このような訴えが続くと、家の中にいる事を怖がり、外に出て行ってしまい徘徊をする場合もあります。
また、このような「幻視・幻視(げんかく・げんし)」の症状が強くあらわれる認知症に「レビー小体型認知症(レビーしょうたいがたにんちしょう)」という認知症があります。徘徊の原因にこの認知症が深くかかわっていることも多々見られます。
※レビー小体型認知症について詳しく解説している記事をご紹介します。
認知症で発症者数が多い上位TOP3を徹底解説!
その他、徘徊が起こった時に見られる症状や行動
先ほどまで、徘徊が起こった時に起こる症状や行動、原因などをご紹介しましたが、認知症によって起こる徘徊には以下のようなものもありますのでご紹介してみようと思います。
自分が今いる場所がどこなのか突然わからなくなる
自分の住んでいる家のトイレに行こうとして、部屋を出たが、目的のトイレの場所がわからなくなり家の中をウロウロする。
この症状は、認知症の症状の1つである、見当識障害が徘徊の原因となっています。
見当識とは、自分の周囲にいる人間や場所、今の時間や日付などを認識し、理解する機能です。認知症を発症したことによって、この見当識という機能に障害が起こるのが見当識障害という症状です。
メガネや財布を置いた場所がわからなくなり、ウロウロ歩き回る
いつも使っているメガネや財布などの私物を、自分でどこかに片付けたのに、片づけた場所がわからなくなり、部屋の中をウロウロと探し回る。しかし、探しているうちに自分がメガネや財布を探していたことも忘れてしまう。
この症状は、昨日食べた食事の献立や誰かと会っていたなどの出来事や、今まで自分がしていた行動や出来事を簡単に忘れてしまうという、記憶障害という症状が原因となっています。
不安やストレスが原因となってウロウロと歩きだす
突然、何かを思い出したように家の外に出ようとする。何かにおびえるように家の外に出ようとする。
この症状の原因には、大きなストレスや不安が関わっています。
例えば、子供と同居することになり、今まで住み慣れていた家を出ることになった。
このような場合、慣れない環境に馴染むことができず、また、新しい人間関係に大きなストレスを感じることで、「元の場所に帰りたい」という強い願望が徘徊という行動につながる場合もあります。
また、同居している家族からの「さっきご飯食べたでしょう」「何度も同じことを言わせないで」このような何気ない一言が、本人にとって「怒られた…」という感情に変わり、その場を逃げ出したい感情から家の外に出てしまい、外をウロウロと歩き回る徘徊につながる場合もあります。
徘徊への対応に困ったら、介護のプロに相談してみる
ご自宅でお世話をしているご高齢者さんに、認知症の症状があらわれたり、徘徊が始まるなどで、介護に困ったときには介護の専門家に相談してみましょう。
その介護の専門家とはケアマネジャーという人です。
このケアマネジャーはご自宅での生活を続けるために、介護(ケア)を必要としているご高齢者が、その人に必要な介護サービスを適切に利用できるように、介護サービスを提供している事業所と、介護サービスを利用するご高齢者やご家族との調整や連携をおこなってくれます。
※ケアマネジャーってどんな仕事をするの?
東京都大田区ホームページより引用
また、介護サービスが適切に提供されるための計画書である「ケアプラン」の作成をおこなうなど、介護保険制度において、介護サービスが提供されるためにとても重要な役割を担っている介護の専門家です。
ご高齢者がご自宅での生活を継続し、お世話をするご家族が介護に疲弊しないように、両者の生活を継続させるために、介護保険サービスが必要と判断すれば、ご家族、ご本人に説明し、同意を得たうえで介護保険サービスの利用を促ししたり、介護保険サービスを利用したことがない人には、介護サービスを利用するまでの手続きの支援などもおこなってくれます。
このケアマネジャーに介護の相談をしたい時はまず、自宅の近隣にある地域包括支援センターという場所に電話をしてみてください。その際には、介護のどのようなことに困っているのかをできるだけ具体的に伝えてください。
※地域包括支援センターとは?
「引用元:介護たすけあいホームページ あったかタウン」
この地域包括支援センターには、介護の専門家であるケアマネジャー、医療の専門家である看護士、行政サービスなどに精通した社会福祉士という職種が在籍していて、地域の住むご高齢者やお世話をする介護者のために国が介護保険制度のなかで設けた、介護の総合窓口です。
自宅の近くにある地域包括支援センターを探す際には、近隣の市区町村役所に電話で確認するか、ご自宅の電話帳などにも、地域包括支援センターで検索すると探すことができます。また、インターネットで検索する方法もお伝えしておきますので参考にしてみてください。
※家の近所の「地域包括支援センター」を探す
「引用元:独立行政法人 環境再生保全機構」
認知症で起こる徘徊の症状や原因についてまとめます
認知症のご高齢者さんの徘徊は、対応するご家族にとって、とても大きな負担がかかる認知症の症状です。
何も言わずに外に出て行って、1人では家に帰ることができず、ご近所さんや警察などにもお願いして行方を捜す・・・。
いつ外に出ていくかわからないから、昼夜問わず本人の様子を見ていなくてはならない・・・。
このように、徘徊に対応するために息を抜く暇もない介護者さんもいます。
徘徊は、認知症のご高齢者さんはただ外に出て行って、行方がわからなくなることでもありますが、それ以外にも、昨今では、家に帰る道がわからなくなった認知症のご高齢者が踏切を超えて線路に入ってしまったり、自転車で誤って高速道路に入ってしまうなど、命にかかわるような場合もあります。
ここまで、認知症によって起こる徘徊について、原因や症状などをご紹介してきましたが、今回ご紹介した内容が、今現在、徘徊に悩んでいる方、また、これから徘徊が始まるかもしれない認知症のご高齢者さんの介護をされている方々に、少しでもお役に立てれば幸いです。