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024 認知症高齢者が入浴拒否をする原因と入浴拒否されたときの対応

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まえがき

入浴とは、身体の清潔を保つだけではなく、体を温めることで血液の循環や代謝機能を高めるなどの効果もあり、また、入浴することで得られる適度な疲労は睡眠効果も促してくれる効果もsあり、私たちにとって、とても大切な生活行為の1つです。

これは、認知症のご高齢者にも当てはまることで、入浴によって体が温まることで血液の循環や代謝機能が高まると、皮膚の乾燥などの予防に効果があり、床ずれの予防にもつながります。また、介護されるご家族にとっても、入浴の時にご本人の全身状態を確認することで、皮膚にトラブルは無いか、床ずれができていないか、打撲や裂傷は無いかなどを確認することもできます。

しかし、認知症の症状が進むことで、これまではお風呂が好きで毎日のように入浴していた方が、突然入浴を拒否することがあります。

「不潔なままでいてほしくない」「ただでさえ、着替えをしたがらないから入浴して着替えてほしい・・・。」ご家族はこのように思っているはずですが、当のご本人が嫌がるのを無理やりに入浴させるのも大変です。

「なんとか入浴してもらおうと、浴室の前まで手を引っ張っていったけど、結局ダメだった」「強引に体を洗ったら、次の日から大声を出して拒否をするようになってしまった・・・。」このような体験談も、介護をされているご家族から多く聞かれます。

ですが、認知症のご高齢者が入浴や排せつなどの介護に対して拒否反応を示しているとき、ご本人の言動に反して無理やりに介護を進めるのはあまりおすすめできません。なぜなら、ご本人には拒否をするだけの理由と、拒否に至るだけの原因があるからです。

そこで今回は、なぜご高齢者が入浴を拒否されるのか、その原因はどんなことなのか、そして入浴を拒否されたとき、どのような対応をすれば、相手に嫌がられずに気持ちよく入浴をしてもらえるのか、適切な対応方法などを事例も交えながら解説してみます。

入浴を拒否される原因はなに?入浴拒否の理由は?

ご高齢者は認知症の有無に限らず、年齢とともに体力が低下してきます。

そしてそのような体力の低下などに伴い、「お風呂に入ると疲れるから」などの理由から、入浴することにとても負担を感じるようになってきます。

昔は毎日のようにお風呂に入るぐらいだったのに、入浴が面倒になってきて、入浴の間隔が1日おきになったり、「今日は疲れているから」などの理由で1週間に一回になってしまったり・・・。さらに、これに認知症の症状によって、身体の洗い方がわからなくなってしまったり・・・。

人によっては入浴を怖がるようになったりと、1人では入浴することが難しくなり、さらに入浴を控えるようになったりもします。

このように、ご高齢者が入浴を拒否するのには、さまざまな理由や原因があります。

そこで、次の章からは、その、入浴を拒否する理由や原因、そして、入浴を拒否された際に、どのように対応すればご高齢者さんが混乱したり拒否をすることなく入浴をしてくれるのか、認知症の症状や事例なども交えながら解説してみようと思います。

入浴拒否の原因|身体の洗い方がわからないから

私たちが「お風呂に入ろう」と思えば、まず脱衣所に行って衣類を脱ぎ、身体を洗った後に着替える下着や衣類などを用意し終えたら、浴室に入り、身体や頭を洗い、シャワーや桶で体や頭にお湯をかけて、せっけんやシャンプーを洗い流す。身体を洗い終えたら浴槽に入って体を温める。このような、一連の動作が、誰に教わることもなく1人で問題なくおこなえると思います。

ですが、認知症を発症されたご高齢者には、手や足を動かす体の機能には全く問題がないのに、今まで当たり前にできていた、お風呂に入って体を洗ったり、お風呂に入る際に、衣類を脱いだり着たりする行為ができなくなるという症状があらわれる場合があります。この症状を「失行(しっこう)」といいます。

この失行という症状があらわれると、お風呂場に連れて行っても、その先の、衣類を脱いだり、浴室に入って身体を洗うなどの入浴の手順が、頭の中からすっぽりと抜け落ちていますから、人によっては「よくわからないところに連れていかれた・・・。」「何をすればいいのかわからない」などと混乱したり、恐怖を訴え、入浴を拒否するようになる場合があります。

身体の洗い方がわからない認知症の高齢者への対応方法

このような、認知症による症状により、入浴を拒否された場合には、まず、ご本人が抱えている「何をしたらいいかわからない」「よくわからない」といった不安や恐怖心を解消してあげることが大切です。

脱衣所まで連れて行ってあげたら、いきなり服を脱ぐように促すのではなく「今日は汗をかいたでしょう」「服を着替えてさっぱりしましょうか」などとさりげなく服を脱ぐように促してあげてください。そのうえで、服の脱ぎ方に戸惑っているようであれば「疲れているみたいだから手伝いましょうか」と一緒に服を脱ぐ行為をおこなってあげると、服の脱ぎ方がわからないという戸惑いを解消してあげることができます。

また、浴室に入った後も「たまには背中を流しましょうか」「今日は暑かったですね」などと、さりげなく体を洗う手伝いをしてあげると、ご本人の「体の洗い方がわからない」という自尊心を傷つけることなく、洗髪や洗身をスムースに行うことができます。

ですが、この時に注意してほしいことがあります。

それは、お湯をかけたり、体をタオルで流す時に、ご本人が体を洗われることやお湯をかけられることを確認していないうちに、いきなりお湯をかけたり身体を洗うなどをしないでください。

また、ご本人の後ろや横など、介護者さんがご本人の視界に入らない場所からいきなりお湯をかけたりすると、ご本人は驚いたり混乱したりすることがありますので、お湯をかけたり身体を洗う時は、必ずご本人の前に立って「お湯をかけますよ」「体を流しますよ」と動作に入ることをしっかりと伝えてからおこなうようにしてください。

このように、洗身や洗髪の動作がわからない為に、入浴を拒否するご高齢者には「わからなくても大丈夫」「わからなくても、教えてくれる人がいる」という安心感を与えてあげることが入浴を拒否する予防にもなります。

入浴拒否の原因|身体を見られるのが恥ずかしいから

誰でも入浴する際には裸にならなくてはいけません。

この裸になるという行為は、もしも自分の裸を見られるようなことがあったとして、裸を見られる相手が普段から気心知れたご家族であってもやはり、自分の裸を見られるというのは、多少気が引けるものです。

ですが、1人では入浴できない認知症のご高齢者はいくら家族とはいえ、人前で自分の裸にならなくてはいけません。

誰でも、多少は自分の体にコンプレックスを持っているものだと思ます。それは、認知症のご高齢者でも一緒です。特に女性の場合などは、人前で裸をさらすという行為に抵抗感を持っている方も多いと思います。

お風呂には入りたいけど、浴室に行くと入浴の手順がわからなくなって混乱してしまう。そして、「1人でお風呂に入れないけど、人に裸を見られるのが恥ずかしいから入浴したくない」このような理由から入浴を拒否する場合も、認知症のご高齢者の入浴拒否の理由として多く見られます。

身体を見られるのが恥ずかしい認知症の高齢者への対応

このように「裸を見られるのが恥ずかしい」などの羞恥心から入浴を拒否される方に対しては、介護をする人を同性の方にしたり、シャワーなどで手短に洗身、洗髪をして、裸になってもらう時間をできるだけ短くするなど、プライバシーへの配慮をおこなうことがとても大事です。

そして、介護している間も、必要以上に体には触れないようにして、洗う動作がわからない人には「このタオルで胸の周りを洗ってください」「このようにタオルで体をこすってください」などと洗う動作を教えてあげて、少し離れた場所で見守るようなスタンスを取ってあげてください。

自分の体をあまり見られたくないのが理由で入浴を拒否している場合には、介護する際にも、できるだけ相手に「今、自分の体を見られている」という意識を持たれないよう、少し距離をとって、直接洗髪や洗身をおこなうというよりも、動作の指示をだして、できるだけ自分でやってもらうという方が、介護されているご高齢者の羞恥心を刺激せずに安心して入浴をしてもらえます。

入浴拒否の原因|さっき入浴したばかりと勘違いしている

ご高齢者が入浴を拒否する原因の1つに認知症によっておこる記憶障害という症状があります。

※記憶障害とは

「引用元:公益財団法人 健康・体力づくり事業財団」

この記憶障害という症状が原因で入浴を拒否される高齢者に入浴を促してみても、「さっき入ったばかりです」「昨日入ったから今日はいいよ」などと、前回入浴したのがいつだったかわからなくなっている場合があります。

この記憶障害という症状があらわれているご高齢者は、ついさっきの出来事なども簡単に記憶からすっぽりと抜けてします。

さらに、ご高齢者には自分の記憶が曖昧だという意識もなく、自分が何かを忘れているという自覚も無いので、普段身近にいてご本人の様子を見ているご家族が前回お風呂に入ってから随分経っているから」などと親切心で教えてあげると、逆に「そんなことはない!」「つい昨日入ったばかりだから今日は入らない!」と反発してしまうこともあります。

さっき入浴したばかりと勘違いしている認知症の高齢者への対応

このように、記憶障害が原因で自分がいつ入浴したのかわからなくなっているご高齢者に「もう、だいぶ入っていませんよ」などとご本人の意見を否定するようなことを言うと「そんなことはない!昨日入っている」と逆に拒否が強くなってしまう場合があります。

このようなときには、入浴を強制するような言動は避けて「この間、背中に湿疹があったから、軟膏を塗りましょうか」などと入浴とは関連の無い話題に変えてみてください。そして、軟膏を塗り終えたあたりで再度「せっかく背中に軟膏を塗ったから、ついでに足も温めましょうか」などと「ついでにお風呂にでも入りませんか」というようにさりげなく入浴に誘ってみてください。

また、話題を変えても浴室まで誘導できそうもない時には、暖かいタオルなどを用意して、ご本人が部屋でくつろいでいるときなどに「暖かいタオルを用意したので背中を拭かせてくれますか」とお願いするような言い方で促してみてください。

このように、一通りタオルで背中を拭いた後に「背中を拭いたので今度は背中をお湯で流してもいいですか」というように、こちらからお願いするような言い方で浴室まで誘導すると、相手も「お願いされたから断るわけにもいかないし」と拒否することなく入浴を受け入れてくれる場合もあります。

入浴拒否の原因|入浴が理解できなくなっているから

認知症のご高齢者が入浴を拒否する理由の1つに、入浴が理解できないというものがあります。

これは、認知症の症状が進行するにしたがってあらわれる症状が関連していて、見たり聞いたりする身体機能や、歩いたり、腕や足を動かす動作も問題なく行えるのに、目の前にある、人や物を正常に認識することができなくなる認知症の症状があります。

この認知症の症状を失認(しつにん)と言います。

この失認という症状があらわれると「入浴しましょうか」とご家族が声をかけて浴室まで連れて行っても、浴室がいったいなんであるかが理解できず、人によっては「なんだこんなところに連れてきて」などと怒り出す場合もあります。

また別の認知症の症状によっては、過去に入浴した記憶や浴室に関する記憶が曖昧になり、入浴という言葉自体を忘れてしまったり、入浴の意味が理解できなくなってしまう場合もあります。このような認知症の症状を記憶障害と言います。

※記憶障害とは
「引用元:公益財団法人 健康・体力づくり事業財団」

このように、認知症の症状のあるご高齢者が、入浴という言葉への記憶が失われてしまった。または入浴という行為や浴室という場所が理解できなくなってしまった。このような症状があらわれることが入浴を拒否する原因となる場合があります

入浴が理解できなくなっている認知症の高齢者への対応

入浴という行為が理解できず、浴室に連れていかれても、ここが一体何をする場所なのか、この理解ができていない認知症のご高齢者に「入浴しましょう」「服を着替えましょう」などと言っても相手からすれば「一体何を言っているんだ」と理解ができず、逆に相手を混乱させる原因ともなります。

このような方には、入浴への誘い方として、できるだけわかりやすい言葉で、まずは浴室まで誘導することを試みてください。

「暖かいお湯で温まりませんか」「今日は汗をかいたでしょう。お背中の汗を流しましょうか」などと、入浴という言葉を使わずに「お湯で温まる」「汗を拭く」という、相手に心地よさを感じてもらえる言葉を伝え、さりげなく浴室まで行くことを促してみてください。

さらに、浴室の前まで連れてきて、その場で本人が「なんでこんなところに連れてきて」などと理解できないような言動を見せた時には「ここで暖かいお湯を用意しているんです」「ここのお湯を使って背中の汗を拭いてもいいですか」とこちらからお願いするような姿勢を見せると、相手のプライドを傷つけることなく同意を得ることができます。

このように、入浴という行為や言葉の意味を忘れてしまい、理解できなくなってしまっている認知症のご高齢者には、相手にとっていかにわかりやすい言葉で浴室まで連れていくことがまず大事です。そのうえで、入浴という言葉を極力使わずに「背中を拭く」「お湯で温まる」などの相手にとってわかりやすく心地よさの伝わる言葉を使いながら、結果として入浴を試みることも大事です。

入浴拒否の原因|入浴が面倒だと思っているから

入浴するという行為には、浴室に入る前に、着ている衣類を脱がなくてはいけません。そして、衣類を脱ぐ前には、身体を洗った後に脱衣所で着替える衣類も用意し、浴室に入ったら身体を洗ったり頭を洗うなど、このように、入浴する際には、行わなければならない数々の動作がありますが、私たちにとっては何も難しいことなどはないと思います。

ですが、これが認知症のご高齢者の場合、認知症の症状の1つである、失行(しっこう)という症状のために、入浴するためにおこなわなければいけない1つ1つの動作をどのように行えばよいのかわからない方もいます。

また、これも認知症の症状ですが、記憶障害という症状のせいで、過去に自分が入浴した記憶や、入浴した時に自分がどのようなことをしていたのか、その時の記憶が無くなっているという
場合もあり、思い出せないことや覚えていないことを1つ1つ考えたり、思いだすことが面倒になって入浴を拒否する場合もあります。

※記憶障害とは
「引用元:公益財団法人 健康・体力づくり財団」

認知症のご高齢者は、自分が思い出せないことを思い出そうとしたり、できないことをなんとかできるように試みる。このようなことにとてもストレスを感じます。

なぜならば、認知症のご高齢者はなぜできないのかが自分ではわかりませんし、なぜ忘れてしまったのか、なぜ思い出せないのか、自分では記憶を整理することもできないからです。

このようなストレスを感じることが何度か続くことで、入浴という行為を面倒に感じるようになり、何日も入浴していない日が続き、ご家族から入浴をすすめられても、面倒になり、拒否をするようになってしまう場合があります。

入浴が面倒だと思っている認知症の高齢者への対応

この「面倒だから」という理由で入浴を拒否しているご高齢者には、何度も入浴をすすめると逆効果です。

「面倒だ」「大変だ」「わからない」こんな風に思っていることを何度も何度もすすめられてもかえって拒否が強くなるだけです。

このように「面倒だから入浴しない」という方に対しては、入浴することで何か楽しい思いができる。また、心地よい気分になれる。このようなことをまず伝えると効果的です。

「今日はお風呂のお湯が温泉と一緒ですよ」とか「たまには背中を流させてくれませんか」などと本人にお風呂に入ることで心地よいことがあるという風に伝えるほうが入浴の拒否がある人に対しては有効です。

入浴拒否の原因|浴室の中に怖いものが見えるから

浴室の中にある鏡に映る自分の姿を見て「誰か知らない人間が自分を睨んでいる」「そこに知らない人間がいる」または、浴室内の壁や天井をみて「天井に大きなムカデがいた」「壁を虫がたくさん動いていた」などとありもしないものが見えると訴え、浴室に入ることを恐れ、入浴を拒否する場合があります。

ですが、実際には浴室内の天井や壁にムカデも虫も全くいない、鏡にはご本人が映っているだけ。このように、実際にはありもしない幻視が見えると強く訴える認知症にレビー小体型認知症という認知症があります。

※レビー小体型認知症を詳しく解説している記事をご紹介します。

※幻視とは
「引用元:ドクターUの精神医学用語辞典」

このレビー小体型認知症という認知症では、症状の初期から「天井に何かいる」「庭に小人がたくさんいた」などとありもしないものが見えると訴える幻視が強くあらわれます。

また、これ以外にも、突然大声を出すことや酷い物忘れの症状も現れる場合もあり、身体的には入浴することに問題が見られないのに、このような幻視という症状があらわれるために、浴室に入ることを恐れたり、人によっては鏡に映る自分の姿に向かって大声で怒鳴りだす人もいたりします。

浴室の中に怖いものが見えている認知症高齢者への対応

先ほどもお伝えしましたが、私たちには見えないものや、ありもしないものが見えると訴える幻視という症状が原因で入浴を拒否される方には、私たちには全く見えないものであってもご本人には見えていると訴えるので、介護される方の負担はとても大きなものとなります。

このような、私たちには見えないのものが見えると訴える方の多くが発症している認知症がレビー小体型認知症という認知症です。

そこで、このレビー小体型認知症という認知症による「ありもしないものが見える」と訴えることが原因で入浴を拒否された場合に、介護される方が絶対にしてはならない対応を始めにお伝えしておきます。

それは「相手の言い分を絶対に否定しないこと」です。

否定したところでご本人には見えているのです。それを否定したりすると「見えていないと嘘を言っている」「みんなで自分をだましているなどと混乱したり、」人によっては家族に対して
暴言や暴力で訴える場合もあります。

ですから、このようなありもしないものが見えると訴えたり、鏡に映る自分を「誰かが自分を見ている」などという幻視のような症状で入浴を拒否する場合に最も有効な対応方法は、まず認知症の専門医に受診をしてみることです。

※認知症の専門医を探すならこちらから
「引用元:公益法人 認知症の人と家族の会」

そこで、適切な内服治療などをおこなった結果、それでも入浴を強く拒否するようであれば「そのうち入ってくれるまで待ってみよう」これぐらいのスタンスで関わってみる。もしくは介護保険サービスを利用して介護のプロにお任せしてみるなども良いでしょう。

認知症高齢者の入浴拒否に対応する際の重要ポイント

ここまで認知症のご高齢者が入浴を拒否された際の対応方法や入浴を拒否される原因などについて解説してきましたが、ここでは、拒否された際にも心地よく入浴してもらうために、介護される方にぜひ知っておいてほしい重要なポイントを3つご紹介してみようと思います。

どうして入浴を拒否しているのかを理解すること

なぜ、入浴したくないのかを理解してあげることが、対応する際に最も大事です。

裸を見られたくないなどの羞恥心が原因なのか、それとも体調不調をうまく訴えることができずに困っているのかなど、ご高齢者の声に出せない訴えをどうすれば聞き出せるのか考えてあげることも大切です。

相手のうまく言葉にできない訴えに、親身になって耳を傾ける姿勢を見せることで、信頼感が生まれることもありますし何よりも相手に「この人なら大丈夫」と安心感をもってもらうことにもつながります。

認知症のご高齢者は人の名前や顔はすぐ忘れてしまいますが、自分にされた介護の体験はしっかりと覚えています。そして、自分にとって安心できる人、安心できない人もしっかりと覚えています。

そして、認知症のご高齢者の介護では、相手を理解し、相手の訴えを尊重したうえで、まず相手に安心してもらうこと、信頼してもらうことがとても重要なポイントとなります。

相手にとって心地よいことは何かを考えること

便秘などで苦しい思いをしている方の場合、お風呂でお腹を温めてあげることで腸の動きが活性化し、自然な排便を促す効果などもあります。また、汗をかいているときなどは、お湯で汗を流すだけで爽快感を感じることができ心地よい気持ちになってもらうこともできます。

また、ご高齢者の場合、かゆみや乾燥肌など皮膚にトラブルを持っている方も多くいらっしゃいます。そのような方の場合、入浴して体を洗った後、保湿剤やかゆみ止めの軟膏などを塗ってあげることで、かゆみなどの不快感が解消され、心地よく生活してもらうこともできます。

このようなことを何度も繰り返すと、もの忘れのひどい認知症ご高齢者であっても「この間お風呂に入ったら心地よかった」「薬をつけてもらったらかゆみがおさまった」という体験を体で覚えてもらうことができます。これを手続き記憶と言います。

※手続き記憶とは
「引用元:脳科学辞典」

入浴を拒否をされたとき「どうすれば入浴してもらえるだろう」と入浴してもらうことだけを目的として考えずに、「入浴は心地よいこと」と覚えてもらえるうよう対応してみることも重要なポイントです。

自分だけの考えを押し付けないこと

何度も入浴を拒否されると介護される方はつい「なんで入浴してくれないのだろう」「もう何日もお風呂に入っていないから、体も汚れているのに・・・。」と考えてしまいます。

ですが、ご本人からすれば「汗をかいていないから大丈夫」「ついこの間入ったから・・・。」などしっかりとした理由があったりします。

私たちは「お風呂には毎日入るのが当たり前」と思っているかもしれませんが、ご高齢者が同じように思っているかといえば必ずしもそうではありません。

「お風呂なんて1週間に1回入れば十分」と思っているかもしれませんし「そんなにしょっちゅう入ったらお湯がもったいない」と思っている方もいるかもしれません。

入浴できないことで、体に重大な支障が出ない限り「今日は入らなくてもいいか」ぐらいに考えてみて、次の機会に「本人が気持ちよくなってくれるようなことはなんだろう」ぐらいに考えてみることも、介護を長くつづけるうえではとても大事です。

認知症高齢者の入浴拒否についてまとめます

入浴拒否への対応は介護される方にとってとても負担が大きなものです。

ご本人に気持ちよく生活してもらうために、入浴してさっぱりしてもらおうとお風呂の準備をして、ご本人に声をかけたら「入らない」と拒否される・・・。このようなとき、声をかけたご家族や介護者さんは「なんで断られたのだろう」「どうすれば入浴してくれるのだろう」と落ち込んだり、悩んだりするかもしれません。ですが、入浴を拒否するには様々な理由や原因があります。

身体の洗い方がわからない。何日も入浴していないのに、昨日入ったと勘違いしている。そもそも入浴する意味が理解できていない。便秘や体調不調があるので入浴どころじゃない。浴室に入るとなにか恐ろしいものが見える・・・。など、様々な理由や原因を抱えている場合があります。

この、入浴を拒否しているご高齢者の抱えている、入浴を拒否したくなる原因や理由を理解することが入浴を拒否したいご高齢者に、心地よく入浴してもらえる対応方法を考える際に最も大事なものとなります。

ですが、何度も入浴を拒否されるようになるとつい「また、お風呂に入らない」「もう何日も入っていないのに」などと考えてしまいますが、ここで考え方を「そのうちに入ってくれればいいか」と変えてみることも、入浴の拒否への対応を楽にするポイントでもあります。

認知症の人は自分の世話をする人をつぶさに観察していて、その人の顔つきや態度、発している雰囲気などを敏感に察します。

介護される方が入浴を拒否されるたびに「何日もはいっていません」と厳しく入浴を促す場合と「そうですか、じゃあ気が向いたら入りましょうか」と穏やかに促す場合では、ご高齢者の反応も変わります。

穏やかに接すれば穏やかな反応が帰ってくる場合もありますし、こちらが険しい顔で接すれば相手も構えてしまうかもしれません。

相手にゆったりと構えてもらい「この間お風呂に入ったら気持ちよかった」と、相手にゆったりと心地よさを感じてもらえるような工夫も入浴の拒否への対応ではとても大事です。

今回、お伝えした内容が、入浴の拒否で悩まれている方に少しでもお役に立てれば幸いです。

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