まえがき
超高齢化社会に突入している我が国日本ですが、昨今、認知症に関連したニュースがテレビやネットで多く取り上げられています。
認知症を発症し、メディアから姿を消していた有名芸能人や、認知症高齢者の事故や事件など、少し前であればどこか蚊帳の外の問題のように捉えられていた認知症高齢者の問題が、日常のニュースなどでごく普通に取り上げられるようになるともに、
認知症高齢者の介護が大きな問題として取り上げられることも多くなっています。
認知症の症状には様々な症状がありますが、物忘れが進行することにより、介護をされる家族との意思疎通が困難になる。昼と夜の違いが判らなくなり、夜中に突然騒ぎだす。トイレに行くことすらわからなくなり、その都度お世話に翻弄される・・・
このような症状と向き合いながら、日々、介護をされる家族の負担はとても大きなものでしょう。
そして、介護疲れという言葉もあるように、日々の介護に疲れ果て、家庭環境が崩壊した結果、
不幸な事故につながる。このようなことも起こっているのが、超高齢者社会に突入している現在の日本です。
介護をする家族にとって、大きな負担となるのが認知症への介護ですが、ここからは、日々介護をされている家族の方に、認知症介護について是非知っておいていただきたいことを過去、10年以上にわたり認知症介護にかかわってきた筆者の経験も交えて解説していきたいと思います。
介護保険制度をご存知ですか?
超高齢化が進むに伴い、今後さらに、介護を必要とする高齢者の増加が見込まれていますが、少子高齢化の加速と、核家族化が進むことにより、同居している家族だけで介護を支えることはとても困難な状況になっています。
こうした状況と、人口に占める高齢者の増加が予測される未来の日本を見据えて、平成12年4月に「介護保険制度」がスタートしました。
介護保険制度は、介護が必要となった高齢者が、必要とする支援(介護サービス)を受けながら安心して生活ができるように設立された制度ですが、もう一つの目的として、介護をされている家族への支援という目的も持っています。
介護保険で利用できる介護サービスは、大きな分類として2つにわけられています。
・1つ目は、自宅に訪問してもらい支援してもらうサービスである、ホームヘルパーなどの居宅介護サービス。
・2つ目が、日帰りや泊まりが利用できる、介護施設を利用した、ショートステイやデイサービスなどの施設介護サービス。
詳しい介護サービスの種類については、下記を参照してください。
ですが、介護をされている家族の方には、介護保険制度の名称ぐらいは聞いたことがあっても、この制度をどのように利用すればよいのかわからない。このような方もまだ多くいらっしゃるようです。
では、この介護保険制度を、どのような場面でどのように利用すればよいのか、事例も交えながら解説していこうと思います。
自宅での認知症介護に疲れてしまったら・・・
ひと昔前の日本であれば、2世帯3世帯が1つ屋根の下で暮らし、家族みなで高齢者の世話をする。
ほんの数十年前であれば、これが当たり前のことでしたが、核家族化が進み、共働き世帯も増えたことで、仕事や家事と介護を両立しなければならないという、家族にとっては大きな負担となる場面も多く生まれています。
日中、食事の用意や定時薬の内服管理。
認知症の症状がある方のお世話であれば、常に様子を見ていなければならない。
介護の合間に家事や家の用事をこなし、仕事を持っている家族の方であれば、家を空けなければならないこともある。
そんな忙しい家族に代わって、日中、食事の世話やトイレの介護などを支援してくれるのが、介護保険制度の、訪問介護(ホームヘルプ)というサービスです。
また、仕事や家の用事で、家を空けなければならない場合には、夕方まで介護施設であずかってもらい、昼食の世話や、入浴の介護を行ってくれる通所介護(デイサービス)という介護サービスもあります。
このような介護サービスを利用するためには、まず、要介護認定という手続きを行う必要があります。
申請の手続き方法などについては、お住いの役所にある介護保険の窓口に行って、申請を行うと、申請用紙の記入方法から、手続き方法まですべて教えてくれます。
また、役所に出かけることが難しい場合であれば、お住いの地区にある、地域包括支援センターに電話で問い合わせてみると、申請の方法から手続きの内容まで、センターの職員がすべて教えてくれます。
また、申請の際に、なぜ介護サービスを利用したいのか?困っていることや、介護で悩んでいることなどを相談すると、問題解決のアドバイスや、適切な介護サービスの利用などについてもアドバイスをもらえるので、自宅での介護に限界を感じてきたら、まず介護サービスを利用することを考えてみてください。
ときには、介護から離れることも大事です。
日々、介護をされている家族の方が抱えるストレスはとても大きなものです。家事や仕事と介護を両立されている方、認知症が進行することによって、お世話する負担もどんどん大きくなっていく。
終わりの見えない介護に疲れ果てて、自分自身も壊れてしまう。こんなことにならないためには、介護から離れる時間を持つことがとても重要です。
介護保険サービスには、日中、夕方まで施設でお世話をしてくれるデイサービス(通所介護)というサービスと、1日から数日間まで、介護施設で終日お世話をしてくれる、ショートステイ(短期入所)というサービスがあります。
特別養護老人ホームや老人保健施設といった、介護老人保健施設でお泊りであずかってもらい、その期間、食事の世話からトイレのお世話、入浴や内服の管理まで、家で家族がお世話していたことを、介護の専門家である施設の職員がすべて行ってくれます。
また、施設には認知症介護の教育を受けた職員も在中していますので、認知症の症状がある程度進行している方であっても、お世話を頼むことができますので、施設に預かている期間は介護から離れて休息をとることができます。
ホームヘルプからお泊りまで全てお願いできる介護サービスがあります。
つぎにご紹介する介護サービスは、お泊りであずかってもらえる介護サービスとして、昨今注目を浴びている、小規模多機能型居宅介護という介護サービスです。
この介護サービスの最大の特徴は、1つの介護施設で、デイサービスからホームヘルプサービス、そして、短期間のお泊りまで対応してくれます。
例えば、週の間で決まった曜日は、家族の方が仕事で家を留守にしなければならない。
そのような場合であれば、その決まった曜日は、日中デイサービスでお世話を頼む。
1日の中で、昼食のお世話や短時間だけ家族の留守中お世話を頼みたい場合であれば、ホームヘルプサービスでお世話を頼む。
さらに、1か月のうち、何日間は家族の休息時間を作るために、お泊りであずかってもらう。
このように、家族の生活スタイルの合わせたサービス利用ができるのも、この小規模多機能型居宅介護の特徴でもあります。
訪問(ホームヘルプ)をお願いしたいときなど、急な用事ができた場合であっても、事業所の都合がつけば対応してくれます。
デイサービスも、一般的な事業所の場合、午前10時前後に迎えに来て、夕方の17時ごろには家に戻るのが大多数ですが、仕事をされている方で、急に残業になってしまい、いつもデイサービスから戻ってくる時間に家に帰れなくなってしまったときなどには、夕方から夜まで、時間延長に対応してくれる事業所もあります。
※別途、延長料金が発生する場合もあるので、利用の際には事前に確認してください。
また、介護サービスを利用する場合には、訪問サービスはA事業所と契約し、デイサービスはB事業所と契約。
お泊りは、C介護施設と契約。というように、利用するサービスごとに契約を行う場合が殆どなのですが、この小規模多機能型居宅介護の場合、1つの事業所と契約すると、訪問から通い、お泊り、そしてケアマネジャーとの契約まで、全て行えます。
忙しい家族にとっては時間も短縮できますし、複数のサービスを利用したい場合にも、融通が利きやすいといったメリットがあります。
介護から短期間でも離れるための、代表的な介護サービスとして、短期入所生活介護(ショートステイ)と、お泊りから通いまで1つの事業所ですべて賄える、小規模多機能型居宅介護という2つの介護サービスについて解説しましたが、こういったサービスを上手く利用することも、介護を長く継続するためにはとても大切なことでもあります。
介護に限界を感じる前にプロに相談する
核家族化、共働き夫婦が多くなっている昨今、介護の担い手がどうしても1人に集中することが多いと思います。認知症の介護はとてもストレスが溜まります。介護施設で働いているプロの介護職員でさえ、意思疎通が困難な認知症の方のお世話に疲弊して、この業界を去っていく方が後を絶ちません。
介護業界が慢性的に人手不足に悩んでいる要因の1つに介護職員のストレスを軽減できていないということがあります。
慢性的な人手不足を解消するために、事業所が認知症介護の経験が浅い人員を雇用し、その結果、痛ましい事故が起こったこともありました。1日の中で、何度も何度も同じことを聞かれる。食事をしたことすら忘れてしまう。
排泄が1人では上手くできなくなり、部屋を汚す。
このようなお世話を毎日続ける家族の負担はとても大きく、介護とはいえ、抱えるストレスも並大抵ではありません。
介護を長く続けていくためには、身体的な負担を軽減することも大切ですが、心の疲労である、ストレスを上手く解消することも大切なことです。そんな時、介護をする家族の強い味方になってくれる場所が2つあります。
次は、その2つの場所について詳しく解説していきたいと思います。
介護のプロが運営している介護の無料相談窓口
介護保険法で定められ、市区町村に必ず1箇所設置を義務付けられているのが、地域の介護相談窓口である、地域包括支援センターです。
このセンターには、保健師もしくは看護師、主任ケアマネジャー(5年以上のケアマネジャー経験)、社会福祉士(介護や福祉制度に精通した専門家)が最低1名つづ配置されていて、地域の高齢者や介護をする家族の抱えている医療、介護などにかかわる問題に対して、助言や相談を行う、公的無料期間です。
相談する際には、電話での対応の他に、センターの職員が自宅まで訪問し、介護の現場を確認しながら、問題となっている課題に対して、助言や解決方法、介護サービスの導入方法から利用する際の料金まで、多種多様な相談業務を行ってくれます。
お住いの地区に必ず1箇所は設置されていますが、場所がわからない場合には、電話張で調べるか、お住いの地区の役所などに問い合わせると連絡先を教えてくれますので、今は必要が無くても、いざというとき、介護をされる家族の強い味方になってくれますので、事前に確認しておくと良いでしょう。
これから介護保険の申請を行うことを検討されている方などは、こちらのセンターに問い合わせれば、申請用紙の準備から、記入方法、手続きの方法まですべて教えてくれますし、忙しい家族に代わって、代理で申請業務まで行ってくれる場合もありますので、介護サービスの利用を検討されている家族の方は1度電話で相談してみると良いでしょう。
営業時間は、日中のみで、日祭日は定休になっている事業所が多いようです。
役所にも介護の相談窓口があるのをご存知でしたか?
お住いの役所にも、介護の相談窓口があることをご存知でしたか?
先ほどお伝えした、地域包括支援センターのように、介護、医療の専門家は複数配置されてはいませんが、介護保険の申請方法などは、その場で申請方法を教えてくれますし、介護施設や介護サービスを探している家族には、地域の事業所への連絡方法や、利用する手続き方法などをわかりやすく説明してくれます。
また、抱えている問題に対して、地域包括支援センターなどへの橋渡しも行ってくれますので、介護で困ったときなどは、まず役所の窓口に連絡して相談してみるのも良いでしょう。
介護の相談窓口として、地域包括支援センターと役所の介護窓口という2つの公的機関をご紹介しましたが、介護を長く続けるうえで胎児なことの1つが、1人で悩まないこと。1人ですべてを抱えないこと。この2つがあります。
1人ですべて抱え込んで燃え尽きてしまう介護者も多くいます。
そのようなことにならないためにも、ちょっとした悩みや困りごとであっても、ここでご紹介した2つの公的機関を上手く利用して、少しでも介護の負担を軽減してください。
まとめ
ここまで、認知症にかかわっている家族の方に、認知症介護で困ったとき、悩んだ時、介護で疲れたとき、ストレスを抱えたときなどに、是非、知っておいてほしいことを簡単にですが、いくつか解説してきました。
介護は終わりの見えない長い道のりになることが殆どです。
介護される方も人間であると同時に、介護をする家族も同じ人間です。
疲れるときもあれば、1人になって休みたいときもあって当然です。
悩んだ時は相談に乗ってくれる人が必要になるときもあります。
そのようなとき、今回お伝えしてきたことが、日々、認知症とかかわっている家族のかたにとって、少しでもお役に立てれば幸いです。