【目次】
- ∨まえがき
- ∨中核症状とは?
- ∨中核症状への対応方法
- ∨周辺症状(BPSD)とは?
- ∨周辺症状(BPSD)への対応方法
- ∨中核症状や周辺症状で困ったときは‟ここ”に相談してみる!
- ∨周辺症状・中核症状について‟まとめ”
まえがき
ご高齢者が認知症を発症すると「物忘れがひどくなる」「何度も何度も同じことばかり言うようになる」など、様々な症状があらわれます。
このような認知症の症状では、「ついさっきの出来事をすぐに忘れてしまう」「1人でお風呂に入って身体を洗ったり、洗髪ができなくなる」といった、本人の日常生活に必要となる行動や動作が自分ではできなくなる「中核症状」と呼ばれるものや、「昨日も知らない人が部屋に入ってきた」「部屋の中のものを盗まれた」といった、対応する家族や介護する人に大きな負担をかけることとなる「周辺症状」と呼ばれるものの2つに分類されます。
この「中核症状」と「周辺症状」は認知症の代表的な症状ですが、この2つには、発症後の本人の変化や、それに対応する方法にもそれぞれ違いがあります。
では、今回は、周辺症状と中核では、それぞれどのような症状があらわれるのか、また、症状があらわれたとき、どのように対応すればよいのか、あらわれた症状を軽減にはどのような方法があるのか、事例など交えながら詳しく解説していこうと思います。
中核症状とは?
中核症状とは、加齢による脳の変化や、脳に障害をおよぼす様々な病気などが原因で、脳の細胞が壊れることによって起こる認知症の症状で、認知症を発症された方であれば、誰でも多く現れる症状です。
症状の代表的なものとしては、ついさっき起きた出来事を忘れてしまうという「記憶障害」や、自分の生年月日や今日の日付、季節などがわからなくなるという、「見当識障害」という症状があります。
その他にも中核症状では様々な症状があらわれますが、ここからは中核症状の代表的な症状について解説していこうと思います。
記憶障害(ついさっき起きた出来事が思いだせなくなる)
認知症を発症すると、発症の初期から多くみられるのがこの記憶障害です。
物忘れがひどくなったり、ついさっき起きた出来事が思い出せなくなったりします。これは、人の記憶を保存する、「海馬」という器官に障害が起こることが原因と言われています。
海馬とは、私たち人間には、日々自分の目や耳で得たたくさんの情報から、重要なものと判断した情報を頭の中に保存し、必要なときに保存した情報を取り出せる脳の器官です。
ここでこの海馬を、記憶を保存するための入れ物と例えてみます。
この記憶を保存する入れ物には、記憶を捕まえるために必要なマジックハンドがあります。しかし、年齢を重ねるにつれて、私たちが日々、自分の目や耳で得た、たくさんの情報を捕らえるマジックハンドの機能が衰え、重要な情報の捕まえもれが起こります。また、せっかく捕まえた情報を、必要なときに取り出す機能も衰えるために、過去に取り入れた情報(記憶)を思い起こすことができなくなります。
記憶を保存するための入れ物は、認知症の進行に伴って、徐々に小さくなっていきます。これによって、せっかくマジックハンドで捕まえた新しい情報が、容器の中からこぼれてしまうといったことが起こります。ですが、容器の下の方に過去から溜まっていた古い情報(古い記憶)はいつまでも容器の奥底に残っています。
これがこの記憶障害の特徴である、ついさっきの出来事や記憶をすぐに忘れる。または思い出せなくなってしまうという仕組みです。
また、記憶を取り込んで保存する海馬は、年齢と共に委縮し小さくなっていきますので、過去に取り込んだ古い記憶も徐々に失われていきます。
見当識障害(今の日付や時間、季節などがわからなくなる)
見当識(けんとうしき)とは、「今日は何月何日」「今は何時か」「自分がいる場所がどこか」「今、目の前にいる人はだれか」など、自分が置かれている状況を把握する能力のことを言います。
この、能力に障害が起こる症状を見当識障害(けんとうしきしょうがい)と言い、記憶障害と並んで、認知症発症の初期から多くみられる症状の1つです。見当識障害では、以下のような症状が多く現れます。
今日の日付や季節など、時間の感覚が薄れていく
今の時間が何時であるかがわからなくなるので、起床時間や食事の時間など、日々、決まって行われている予定に合わせて行動することができなくなります。また、病院に行くときや、買い物などに出かける際に、その予定に合わせて準備をすることができなくなったりもします。
症状がひどくなってくると、今日の日付や今の時間がわからないことに常に不安を感じるようになり、「今日は何月?」「今日は何曜日?」などと何度もたずねてくるようにもなります。また、季節の感覚も薄れてくるので、季節が春なのに、厚手の服に着替えたり、季節感の合わない服を平気で着たりもします。
今、自分がいる場所がわからなくなる
今、自分がどこにいるのか、自分がいる場所がわからなくなってしまうので、今まで何十年も通いなれた道や、古い付き合いのご近所さんの家まで出かけていっただけなのに、今自分がどこにいるのかがわからなくなるので、簡単に道に迷うようになります。
症状がひどくなってくると、自分の住んでいる家の中のどこにどんな部屋があるのか、トイレや浴室はどこにあるのかもわからなくなり、夜、トイレに起きたけど場所がわからなくなり、寝ている家族を起こしたり、ウロウロとトイレを探している間に失禁してしまったりもします。
人の名前や顔を簡単に忘れてしまう
記憶障害が進むことで物忘れの症状がひどくなってくると、自分の今の年齢がわからなくなり、まじめな顔で「今日は会社に行く日だから」と言ってみたりします。
また、過去と現在の記憶が混ぜこぜになり、すでに結婚して家庭を持っている自分の子供に向かって、「そろそろ結婚しないと」などと平気で言ったりもします。さらに症状が進んでくると、すでに亡くなっている人の話をしだしたり、もうすでに無くなっている、昔のご近所さんがいた場所に出かけようとしたりもします。
理解力・判断力の障害(物事の理解に時間がかかるようになる)
認知症の症状が進むことによって、物事を理解する能力や、しても良いこと、してはいけないことへの判断力に障害が起こるようになります。この他に、「理解力・判断力の障害」では以下のような症状があらわれます。
いつもと違う出来事に遭遇すると混乱する
同居していた家族に不幸があったり、逆に、孫や親族に新しい家族ができた。このような、今までに無かった新しい出来事が目の前に現れたとき、その出来事を受け止めることができず、どのように対処すればよいのかもわからなくなり混乱をきたすようになります。
お祝いの場で、その場にそぐわない言動が見られたり、親族の不幸があったばかりなのに、亡くなった人の家に遊びに行こうとしたリなど、今までには無かった新しい出来事を理解し、対応することができなくなります。
しても良いことと、してはいけないことの判別がつかなくなる
いつも血圧が高く、塩分の摂りすぎに注意するようにお医者さんからも家族からも常に言われているのに、塩辛いものを食べてしまったり、糖尿病の治療をしているのに、餡やチョコレートを食べてしまったりなど、してはいけないこと、注意しなければいけないことへの判断ができなくなります。
また、月末になって、持っている現金が残り少なくなっていることはわかっているのに、商店などに行ったとき、目の前にあるものを見ると、残金を考えずに手当たり次第に買い物をしてしまったり、通販で多量に買い物をしてしまったりなど、今自分の置かれている状況への判断もできなくなったりもします。
失認・失行・失語(言葉が上手く使えないようになる等・・・)
失認(しつにん)・失行(しっこう)・失語(しつご)という症状があらわれると、脳の言葉を発する機能の障害が現れ、目の前にあるものを見て、それが何であるかが理解できていても、言葉を正しく発することができなくなったり、相手の言っている言葉の意味が理解できなくなったりします。
また、症状が進むことで、今まで自分で行えていた日々の動作ができなくなったりもします。この他にも、失認・失行・失語では、以下のような症状が現れます。
言葉の意味は理解できても、言葉を上手く発することができなくなる
失語(しつご)という症状では、「今日の天気は晴れ、それとも雨?」と相手に問いかけたとき、問いかけられた相手が、テレビなどで今日の天気が雨とわかっていても、相手に「あめ」と正確に返答ができず、「うめ」「なめ」などと答えてしまいます。
また、言葉を発するまでに時間がかかり、「・・・う・・・あ」などと言葉にならない不明瞭なことを発する時も多くみられます。
見たり触れたりするものの名前を正確に答えられなくなる
失認(しつにん)という症状では、外見上、身体に全く問題は見られないのに、視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚という五感を正常に機能させることが難しくなります。
例えば、目の前にあるテレビを見ても、それがテレビであることを認識できなくなります。ですが、テレビ番組を見せると、それが「テレビである」ことが認識できます。
また、自分の目の前にある景色の片側半分を視覚で認識できなくなる「半側空間無視」というものも、失認での特徴的な症状です。
これを例で例えると、食事をするためにテーブルに座り、目の前に食事が並べられているのに、右、もしくは左側の空間にあるものしか認識ができず、食事を半分しか食べなかったり、こちらから、まだ半分食事が残っていると伝えても、その意味が理解できなかったりします。
ズボンを頭からかぶってしまうようになる!
失行(しっこう)という症状では、日々の生活の中で必要となる「着替えをする。食事を食べる。トイレに行く。」このような動作を行うために必要な身体の機能には障害がないにもかかわらず、その動作をどのように行えばよいのかわからなくなってしまいます。
例えば、朝起きて着替えをするように促しても、上着の袖を片側だけ入れていたり、上着のボタンをかけることができなくなったりもします。症状がひどくなると、ズボンを頭からかぶってみたり、下着を身につけないまま、いきなり上着を着たりもします。
また、今までできていた簡単な動作ができなくなり、洗面台で水を出すことは出来ても、使った後に水を止めることをしない。トイレに入って用を済ませても、排せつ物を流さずにそのままにしてしまう。このように、動作の一部分は行えても、どこかで必要な動作が抜け落ちている。または、その動作が理解できなくなってしまうのが、この失行という症状の特徴でもあります。
中核症状への対応方法
中核症状とは、加齢に伴って起こる脳の萎縮や、脳に影響を及ぼす様々な病気などによって発症する認知症の症状です。認知症を発症された方の多くに、発症初期から多くみられるのもこの中核症状と言う症状でもあります。
中核症状の代表的な症状に、見当識障害というものがありますが、この症状では、脳の記憶を保存する器官である海馬と言う部位が委縮し、記憶を保存する容量が小さくなることで起こる、記憶障害と言う症状が代表的なものになります。
記憶障害を発症すると、今日の日付がわからなくなったり、自分が今いる場所がなんであるかがわからなくなるといった症状が起こりますが、この記憶障害を発症することで、他にも様々な症状が現れます。
ではここからは、その中核症状の様々な症状への対応方法について解説してみようと思います。
今日の日付や時間がわからなくなった時への対応方法
見当識障害では、「今日は何日?」「今は何時?」などと何度も何度も訴えることが多くみられます。
このようなとき、毎日接している家族の方は、つい、「さっきも言いました」「今日は〇日です」と突き放すように対応してしまうかもしれませんが、これは本人がわざと言っているわけではなく、認知症を発症したことによる、記憶障害というものが原因となって起こっているのです。
このようなことが続いた場合には、部屋のカレンダーを日めくりカレンダーに替えて、毎日一緒にめくる習慣をつけたり、相手が訴えてくる前に「今日は〇月〇日ですよ」と相手の理解を促すような対応が大切です。
今、自分のいる場所がわからなくなったときの対応方法
これも見当識障害が原因となって起こる症状で、症状が進行すると、今住んでいる家を、自分の家と認識できなくなり、過去に住んでいた家や、親が住んでいた家を自分の本当の家と思い違いするようになったりもします。
このような記憶の思い違いがひどくなることで起こるのが、突然家の外に出て行ってしまう「徘徊」と言う症状です。症状が進行すると、家の中のトイレやキッチン、浴室などが何のためにある場所なのかもわからなくなることもあり、意味も無くただ、家の中をウロウロと歩き回るようにもなります。
このような症状が起きたときには、部屋の入口に、本人が目印になるようなものを付けてあげて、ここが本人のいる場所であることを認識させることも有効な対応方法です。
また、トイレやキッチンの場所がわからなくなって家の中をウロウロするようであれば、廊下や壁に、「トイレ」「食堂」などと、目印になるものを提示することも有効な対応方法です。
このように、今いる場所を「自分のいる家」と認識させることが、突然家の外に出て行ってしまうといったことへの予防法にもなります。
家族や子供などの名前が言えなくなってしまったときの対応方法
症状が初期の場合であれば、人の名前は出てこなくても、写真を見せたり、外出した時のエピソードなどを伝えることで、記憶がよみがえることもあります。
症状が進行してくると、写真などを見せても、名前だけではなくその人自体を認識できなくなってしまいますが、このようなときには、家族の写真に名前を書いてあげて、本人の目に留まりやすい場所に置いてあげたり、紙に書いておいていつも見える場所に置いてあげることも、本人の不安を解消するためには有効な対応方法でもあります。
名前や人が認識できなくなることで、本人は絶えず不安を感じるようになりますが、この時もっとも大切なことは、本人に、「間違えても大丈夫」「忘れてしまっても、いつも身近に教えてくれる人がいる」この2つを感じてもらえるよう接することが大切ことでもあります。
理解力が低下してきたときへの対応方法
誰でも歳をとるにつれて、物事を理解したり、判断したりする能力は低下してきますが、認知症を発症すると、脳の細胞に障害が起こることで、日常生活に支障が出るほどに、物事を理解したり、判断する能力が低下してきます。
例えば、外出する際に、「今日は昨日に比べて少し涼しくなりそうだから、1枚余分に羽織っていった方が良い」と言われたとき、相手の言っていることが正常に理解できていれば「今日は1枚余分に上着を羽織っていこう」などと、衣類の調整を行えますが、認知症により理解力が低下していると、「1枚余分に何を着ればよいのか」「なんで余分に着ていかなくてはならないの?」というように、相手の言っている意味が理解できず、春先なのに、厚手のコートを用意しようとしたリ、何を用意しようとしたらわからなってしまったりもします。
このようなときには、「1枚余分に衣類を羽織る」などと抽象的な表現ではなく「タンスの何番目の引き出しに入っている、何色の長袖を用意する」とできるだけ具体的にわかりやすく伝えることが大切です。また、伝える際には、相手の表情を確かめながら、ゆっくりと伝えることも大事です。
急いでいるときなどは、つい早口で用件を伝えてしまうかもしれませんが、こちらが伝わっていると思っても、相手には内容の半分の伝わっていないこともありますので、要件を伝える際には、ゆっくりと相手の反応を見ながら、一度で伝わっていないようであれば、もう一度内容を伝えてあげることも大切です。
判断力が低下してきたときへの対応方法
認知症を発症したことにより、判断する能力が低下してくると、しても良いことといけないことの判断がつけられなくなり、外出先の商店などで、並んでい商品を、いきなり手に取って、お金を払わないままに店を出てしまう。食品などをその場で開けて食べてしまったりします。
また、慢性的に高血圧で、塩分を控えるようにお医者さんから常に注意を受けているのに、塩辛いものや塩分の多いものを勝手に食べてしまうなど、健康面での判断もできなくなることも多々見られます。
このように、判断力の低下している状態では、本人1人に判断をゆだねることはとても危険です。
外出する際には、1人で外出させることは出来るだけ避けたほうがよいでしょう。また、健康面での管理に関しても、本人のみでは、食事や服薬などの管理は困難であるために、内服や食事などはできるだけ家族の目の届く場所で管理を行う方が良いでしょう。
判断力が低下している状態で、もう一つ注意してほしいのが、金銭の管理です。
家族が外出中に訪問販売員の口車に乗って、必要も無い高額商品を契約してしまったり、健康食品などの通販商品を大量に購入してしまったりなどが起こる場合もあります。
このように、必要なものと必要でないものの判断がつかないことで、自分の所持金以上の買い物をしてしまったり、勝手に高額のローンを組んでしまうこともありますので、所持金を渡す際には必要最低限にとどめ、買い物などはできるだけ家族と一緒の時に行うようにした方が良いでしょう。
言葉の意味は分かっても返事が上手くできなくなったら・・・
脳の中にある、言葉を発する機能に障害が起こることによって、相手の言っている内容は理解できても、その返事を上手く言葉で返すことができなくなる症状を失語と言います。
この症状が出たときには、まず、上手く返答が帰ってこないと分かったら、伝える内容を単純な内容に変えて、ゆっくりと返答が帰ってくるまで待ってみてあげてください。
例えば、食事の献立を決めるとき、「今日は魚が食べたいですか?それともお肉が食べたいですか?」と問いかけてみても、相手の返答に時間がかかったり、返答の中身が「う・・」「それ・・」などと返事が上手くできない場合には、言葉で伝えるのではなく、紙に文字で書いて、どちらが良いのか指で指してみたり、食材を見せて、ジャスチャーで伝えるなどの工夫をしてあげてみてください。
見たものや触ったものを見当違いに答えるようになったら・・・
目や耳、鼻や舌などの、見たり聞いたり、臭いや味覚を感じるために重要な身体の器官を感覚器と言いますが、この器官に特に異常は無いのに、目や耳などを通して得た状況を正確に把握し理解する機能が低下する障害を失認(しつにん)と言います。
この症状があらわれたときに最も注意してほしいことは、身体に危険が及ぶものを本人の身の回りに置かないことです。若いころに日曜大工が得意だったとしても、ノコギリを大工道具であると理解することができず、ものの名前すら正確に答えることができなくなります。
またノコギリの刃が、使い方を間違うと手を切ってしまうものであることも理解できずケガをしてしまったりもします。その他では、飲み物と洗剤などの違いが理解できず、洗剤の名前を見ても、それが洗剤であることが理解できなくなります。本人は洗剤が口にいれてはいけないものだと理解できず、喉が渇いたとき、つい目の前に置いてあった液体洗剤を水と間違えて飲んでしまったりなど、事故につながることもあります。
また、失認(しつにん)では、自分の目の前にある景色の片側半分を視覚で認識できなくなる「半側空間無視」という症状もあらわれます。
この症状では、歩いているとき、片側にある障害物が見えていないことで、転倒したりケガをしたりすることもあるので、何気なく歩いているのに、やたらと物にぶつかるようなことが見られたら、まず、視力に異常が無いか検査を行ってみてください。
視力に問題が無いようであれば、家の中で、日常生活の中で本人が通る、廊下やトイレの入り口など、障害物になりそうな場所を把握し、できるだけ通り道や入り口は広い空間を作ってあげることも事故の予防につながります。
洋服や下着を1人で正しく着替えることができなくなったら・・・
服を着替える。食事をする。トイレで排泄をする。このような、日常生活での動作を行える身体の機能はしっかりとあるのに、その動作をどのように行えばよいのかわからなくなり、着替えをさせたら、ズボンを頭からかぶってみたり、食事では、ご飯を手でつかんだりなど、正しい動作ができなくなる認知症の症状を失行(しっこう)と言います。
このような症状がみられた時には、上着をできるだけボタンの無い、かぶりものに替えたり、ズボンには目立たない場所に「足を入れる」など目印になるものを付けてあげるなどの工夫をしてみてください。また、食事でも、大きめのお皿によそってあげて、スプーンなどを用意して、食べる動作が簡単にできるように工夫することも大切です。
この症状があらわれたとき、注意してほしいのは、水回りや火の元にできるだけ近づかないようにしてください。家族の目の届かないときに、ガス台を触ってケガをしたり、水回りで、元栓を閉め忘れてしまうなどが起こる可能性があります。
動作に必要な工程が少なければ少ないほど、本人ができることも増えますので、家族の負担を少なくするためにも、動作をわかりやすくする工夫を行うことが、この失行への対応としては最も大切になります。
周辺症状(BPSD)とは?
先ほどの章で、認知症の症状は大きく2つの症状に分けられ、1つが中核症状(ちゅうかくしょうじょう)というもので、もう1つが周辺症状(しゅうへんしょうじょう)というものであることをお伝えしました。
中核症状は、加齢に伴う脳の萎縮などが原因で起こり、認知症を発症した方であれば、症状の差はあっても必ず現れる症状で、文字どおり、認知症の核を成すとされる症状と考えられています。それに対して、もう1つの症状である周辺症状は、認知症の核となる症状である中核症状がある程度進行することにより、その人にかかわる環境の変化や、その人自身の行動や心理状態の変化などが絡み合って起こる症状のことを指します。
周辺症状はBPSD(行動・心理症状)とも呼ばれていて、これは、日本語表記での「認知症の行動と心理症状」を英語で表した「Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia」の頭文字である「BPSD」をとったものです。
中核症状には、認知症初期から多くみられる症状が多く、家族や介護者のサポートがあれば、ある程度対応可能なものが多いのに対し、周辺症状(BPSD)では、暴言や暴力行為、徘徊や失禁といった、介護する人が対応に苦慮するものが多いのもこの症状の特徴でもあります。
その他にも周辺症状(BPSD)では様々な症状があらわれますが、次からは周辺症状(BPSD)の代表的な症状について解説していこうと思います。
暴力や暴言(感情のコントロールができなくなる)
理性や感情をコントロールする働きを持つ、脳の前頭葉の萎縮が進行したり、中核症状の進行によるストレスなどが原因で、ちょっとしたことで感情の抑えが効かなくなり、暴言や暴力行為という症状があらわれます。暴言や暴力という症状では、その他に以下のようなものも現れます。
体調不調を伝えることが上手くできず、突然怒り出す。
この症状があらわれる原因として、体調の不調があります。「便秘でイライラしている。」「夜間不眠が続き、身体がだるい。」このような体調不調を家族や介護者に上手く伝えることができず、そのイライラやストレスが暴力行為や暴言となる場合もあるようです。
不平、不満が溜まり暴力に訴える。
これは、介護者や家族のかかわり方が原因となることが多く、本人の言動に対して、見下した態度をとったり、訴えに対していい加減な返答を行うなどすると、本人の不平、不満が溜まり、その結果、暴力行為となって現れることが多いようです。
うつ症状(無気力になる、不安を訴えるようになる)
この症状も中核症状が深く関連しています。中核症状の症状である記憶障害や見当識障害が進むことで、「今まで自分でできていたことができなくなった」「なぜできなくなったのかわからない」このようなことが重なることで本人の自尊心が傷つき、自信を喪失させることがあります。
その結果「もう自分はダメだ・・・」「何もやる気がしない」「何もできない」という、うつ状態があらわれます。うつ状態にはこの他にも以下のような症状が現れます。
寝たきり状態になる
うつ状態が続くことで、「家に引きこもるようになる」「寝てばかりいる」といった症状があらわれることもあり、このような状態が原因となって、認知症がさらに進むこともあります。
1日に何度も同じことを聞いてくるようになる
不安感が強くなることと自分に自信が無くなることが重なり、ちょっとしたことでも、何度も何度も同じことを聞いてくるようになります。
妄想(事実ではないことを何度も訴えてくる)
現実的にあり得ない出来事や事実ではないことを、さも事実であったかのように訴える症状です。症状が進行すると、身近にいる家族や介護者に対して被害妄想的な言動を取るようになったりもします。妄想ではその他に以下のような症状も現れます。
大事なものが盗まれた!無くなった!と何度も訴える
自分でしまい忘れたものや、すでに無くなってしまったものなどを、「盗まれた!」「無くなった!」と何度も何度も訴えます。対応に困った家族が一緒になって探し、見つかったとしても、「誰かが勝手に動かした!」などと言って、自分がしまい忘れたという事実を理解することもできない場合もあります。
差別された!いじめられている!と訴える
家族や介護者の些細な言動が自分の気に入らないことであった。自分の訴えを拒絶された。このように感じたとき、「自分だけ差別されている」「家族にいつもいじめられている」などと被害妄想的になる場合があります。
症状がひどくなると、言ってはいけないことや、場にそぐわない言動であることの区別もつかなくなる場合もあり、訴えが家族以外の人に及ぶ場合もあり、その対応に家族が苦慮することも多々見られます。
幻覚・幻視(実在しないものを、実在すると訴える)
現実には起きていない出来事や、存在しないものを、「見える」「聞こえる」などと実際に存在するかのように訴える症状です。幻覚や幻視の他にも、聞こえないはずの音が聞こえると訴える幻聴や、近くに誰もいないのに、絶えず人の存在を訴えおびえる体感幻覚といった症状もあります。幻覚や幻視などでは、具体的に以下のような症状が現れます。
誰が見ても存在していないものを「見える」といって混乱する
「天井に虫がいる」「庭に小人がいる」など、一般人には見えない、理解できないものを、「見える」「そこにいる」などと何度も訴える症状を幻覚と言います。症状の出方によっては、すでに他界した家族が見えると言ったり、真夜中に突然玄関まで歩いていき、「お客さんが来ているから」などと訴えることもあります。
その場にいる家族や介護者にとっては、本人が何も無い空間に向かって独り言を言っているようにしか見えませんが、本人にとってはそこに何かが見えているので、「何もいないよ?」「何を言っているの?」などと、本人を諭すような言動を取ると余計に混乱する場合もあります。
鏡に映る自分の顔が、自分として認識できなくなる
これはレビー小体型認知症の初期症状でも見られる症状です。
例えば、夜、部屋の外に見える街頭の灯りを、「外で火が出ている」と言ってみたり、部屋の壁紙の模様を見て、「壁を蛇が這いずっている」などと訴えたりします。夕方から夜にかけて、日暮れ時になると、このような訴えが多くなるようです。
「誰かが自分の悪口を言っている」など、ありもしないことが「聞こえる」と訴える
そこに誰もいないのに、「誰かが話しかけている」などと言って、やたらと自分の周りを何度もうかがうような症状が現れます。症状がひどくなると、ちょっとした物音に敏感に反応するようになり、生活音を、「誰かが騒いでいる」「自分を呼んでいる」などと非現実的な訴えをするようにもなります。
また、見当識障害の進行によって、言葉の意味が理解できなくなることで、相手の発している言葉の意味が理解できず、「自分のことを何か言われている」などと、被害妄想のような症状が現れる場合もあります。
異食(食べてはいけないものの見分けがつかなくなる)
誰が見ても食べてはいけないもの、食べ物ではないものを口にいれてしまうことを「異食」と言います。これは、認知症がある程度進行するとあらわれる症状の1つで、水と液体洗剤の区別がつかなくなったり、飴玉と乾燥材の違いがわからなくなり、口に入れたことで生命に危険が及ぶこともあります。
その他に、異食では以下のような症状が多くみられます。
今では、どの家庭でもよくみられるものを口にいれたら・・・
最近では、洗面台などにハンドソープが置いてあるご家庭も多いと思います。
このハンドソープが洗面台に置いてあると、これを飲み物を勘違いし、簡単に口に入れる事故が多くみられます。また、ハンドソープの容器は、簡単にキャップが外れるものが多く、キャップが外れたことで、一度に大量の洗剤を飲み込んでしまうといった事故も多くみられるようです。
その他にも、洗濯場などには、洗濯洗剤の他に、漂白剤やマジックリンといった身体に入れると命の危険もある洗剤が置いてあるご家庭も多いと思います。漂白剤やマジックリンなどを飲み込むと、胃の中がやけどをした状態になり、命に危険が及ぶこともありますので、置き場所や保管場所には厳重に注意が必要です。
普段使っているお手拭きにも注意が必要です。
食前や食後に手を拭くために、テーブルの上に、おしぼりタオルやペーパータオルを置いているご家庭も多いと思います。このおしぼりを口に入れたことが原因となり、窒息事故が起こることもあります。また、ペーパータオルは口の中で溶けてしまうので、吐きださせようとしても、一度にすべてを取り除くことが困難な場合もあります。
徘徊(今、自分がいる場所がどこなのかわからなくなる)
今、自分がどこにいるのかわからなくなる。今の自分の年齢がわからなくなったり、過去の記憶と現在の記憶が頭で整理できなくなるなど、見当識障害の症状により起こる認知症の症状です。
意味も無く、突然家の外に出たり、外に出たら、自分が今どこにいるのかわからなくなり、元の場所に帰ってこれなくなったりなどが起こります。
その他にも、徘徊では以下のような症状も現れます。
自分の家に住んでいるのに、突然「家に帰る!」といって外に出ようとする
これは、過去に記憶と現在の記憶の区別がつかなくなることで多くみられる症状の1つです。
結婚する前に住んでいた家や、自分の親と同居していた家が自分の家だと思いこみ、今住んでいる家を「遊びに来ている場所」や「親戚の家」などと解釈することで、このような症状が現れます。
とっくに定年しているのに「仕事に行ってくる」と言って外に出ようとする
かなり昔に仕事も定年し、家族の世話になっているにも関わらず、「これから仕事に行ってくる」「会社から呼び出しがかかったから駅まで行ってくる」などと言って、突然、外にでようとすることがあります。
これは、今、自分のできることがどんどん失われているという喪失感から、若かったころ、毎日元気に働いていたという、自分にとって輝いていた時代にもう一度戻りたいという感情が現れることによって起こります。
周辺症状(BPSD)への対応方法
先の章の「周辺症状の代表的な症状」でお伝えしたように、暴言や徘徊、物盗られを訴えるなど、同居されているご家族や、介護をされている方にとっては大きな負担となる症状が多いのが周辺症状です。
かかわる側から見ると、理解困難なことが多くみられますが、症状に訴えている本人には、症状の1つ1つに理由や原因があり、その原因や理由を少しでも理解することが、適切な対応方法への近道でもあります。
では、ここでは、先の「周辺症状の代表的な症状」でお伝えした症状への対応方法について解説してみようと思います。
暴力や暴言への対応方法
この症状への対応方法を理解するうえで最も大切なことは、暴力行為や暴言が認知症の症状であることを理解することです。
対応する側からすれば、突然大きな声で叫ばれたり、暴力行為を受けたりすればつい「なんでそんなことをするの」「いい加減にして」と相手に訴えたくなるでしょう。ですが、本人も相手を困らせようとしているわけでもなく、認知症の進行によって、ストレスやイライラといった感情を抑えることが原因のほとんどです。
怒りに訴える理由や原因を探る
相手の怒りや、イライラの原因が何であるのかを探ることが、適切な対応を行う上で最も大切なことです。夜間の睡眠が十分にとれていないことが原因であるようならば、医師に相談し、睡眠薬などを処方してもらうのも良いかもしれませんし、便秘が続き、腹部の不快感が続くことで、深いの訴えを上手く伝えることができず、暴言などに訴えることも多くみられます。
手に負えないと思ったらその場を離れる
暴言や暴力に訴えてきたとき、相手の訴えに耳を傾けたりなど、様々な対応を試みてみても症状が治まりそうになかったら、一旦その場を離れてみてください。
興奮状態が続いているときにはその状態が治まるまでは時間がかかることも多くみられますので、まずはいったんその場を離れ、治まるまで様子を見てみてください。
ただ、その場を離れる際に注意してほしいことがあります。
それは、暴力行為などが始まったとき、本人が自分の近くにある家具や食器などを持って暴れていないかを確認してください。感情の抑えが効かなくなり、近くにある家具や食器などを投げたりすることで、本人や家族やケガをする場合もありますので、その場を離れる際には、本人の身の回りに危険なものが無いか注意が必要です。
うつ症状への対応方法
「今までできていたことができなくなる」「できなくなった理由がわからなくなる」などの中核症状の症状である記憶障害や見当識障害が原因となって発症することが多いのが、認知症のうつ症状です。どのように対応すればよいのか、家族が苦慮するのもこのうつ症状ですが、適切な対応を行うことで症状の改善が見られる場合もあります。
医療機関へ受診する
うつ症状を発症する原因に、内服薬が関連している場合があり、精神安定剤や睡眠薬などを長期間服用していることが原因となってうつ症状を発症するなどもみられるようです。
内服薬が適切であるかを医師に相談し見直しをしてもらうことで、今の状態に最も適切な処方がされ、症状が改善されることもあるようです。
一緒に過ごす時間を作ってみる
うつ症状がひどい時には、こちらから話しかけてみても、何も反応が無かったり、時には拒絶されることもあります。
ですが、いつも気持ちがふさぎ込んでいるわけでもありませんから、少しづつでもよいので、一緒に過ごす時間をつくってみてください。本人が好んでいたことや、たわいもない会話などで少しでも心地よい時間を作ってあげることもうつ症状の改善には大切なことでもあります。
妄想への対応方法
現実にはあり得ないことを、事実であるかのように真剣に訴えてくるのが妄想という症状です。
例えば「〇〇が無くなった」「〇〇を盗まれた!」「夜寝ていたら、いきなり知らない人間が部屋に入ってきた!」などと、ありもしないことを、何度も何度も訴えるので、家族や介護者が対応に苦慮するのもこの妄想という症状です。
では、このような症状があらわれたときにはどのように対応すればよいのか解説してみようと思います。
相手の言い分を否定しないこと
もの盗られ妄想など、ありもしないことを突然言い出したとき、「そんなことないでしょう」「どこかにあるでしょう」などと、相手の言い分を頭ごなしに否定するとかえって逆効果です。
誰が見てもあり得ないことに何度も付き合わされると、つい、相手の言い分を頭ごなしに否定してしまうかもしれませんが、こんな時には面倒だと思っても、まずは相手の言い分を最後まで聞いてあげることが大事です。
「盗られた!」「盗まれた!」と訴えてきたときには、「じゃあ、部屋のカギを新しいものに替えて、戸締りをしっかりしましょう」や「最近知らない人が来なかったかみんなで見張っておきましょう」などと、相手の言い分を受け止めたうえで、相手を安心させることのできる提案をしてあげることも大切です。
医療機関で相談してみる
症状が進行してくると、対応する家族も大きな負担を負いますが、なにより本人が疲れ果て、身体にも影響が起きることがあります。
夜間の不眠が起こったり、食欲の不振が起こったりなど、身体への負担が起こってくる前に、専門医へ受診するとこも大事です。夜間の不眠が起きているようであれば、睡眠導入剤などを処方してもらう等も、症状を緩和するためには有効な手段でもあります。
幻覚(げんかく)・幻視(げんし)への対応方法
この幻覚(げんかく)・幻視(げんし)という症状では、「天井に虫が這っている」「庭に知らない誰かがいる」など、一般人には見えないものや、実際にはあり得ないものが存在するかのように訴えます。症状が進行すると、昼夜間問わず訴えが続きます。
突然混乱しだしたり興奮状態になることも多くあり、対応する家族や介護者の負担やストレスが大きくなるのもこの症状の特徴でもあります。レビー小体型認知症に似た症状を発症するのもこの幻覚・幻視の特徴でもあります。
「〇〇が見える」と訴えてきたら、それが「見えないように」接してあげる
実際にはありもしないものを「見える」「何かいる」と訴えてきたとき、「そんなものはいない」「見えるわけない」などと、相手の言い分を否定するようなことはしないでください。
これは、妄想を発した時の対応方法と似ていますが、こちらがいくら「そんなものは見えない」と言ったところで、相手が納得することはありません。ですから、こんな時には、相手の見えているものを「見えない」ように説明、もしくは説得することが大事です。
例えば、「天井に虫が這いずっている」などと訴えてきたときには、天井を掃除するふりをしてあげてください。天井にいる虫を取り払うふりをしてあげて、「これでもう、虫はいなくなりましたよ」と相手を安心させてあげてください。
また、庭や部屋の中に「知らない誰かがいる」などと訴えてきたときなどは、「知らない人が入ってこないように、みんなで見張りますから」「鍵をしっかり閉めて用心しましょう」などと、相手の不安を解消できる提案をしてあげることも、対応としては有効な手段です。
ときには、子供のように接してあげるのも有効な手段
夜になると、「隣の部屋から自分の悪口が聞こえる」「この間、みんなで自分の噂話をしていた」などと、被害妄想的な言動が続くのも、この妄想の症状の1つです。こんな時に最も有効な対応方法は、相手の不安の原因となる環境を解消してあげることです。
このような、他人が言っていることの内容が理解できないことから起こる、不安や混乱を解消してあげる有効な手段としては「できるだけ一緒にいる時間を作ってあげる」ことです。
日中はできるだけ自分の目の届く場所にいてもらう。夜になると不安を訴えてくるようであれば、寝室を一緒にする、なども有効な対応方法でもあります。
部屋の中やトイレはいつも明るくしておく
夕暮れ時になると不安を訴えたり混乱が始まるのも、この幻覚・幻視の特徴でもあります。
夜起きたとき、部屋の中がうす暗かったりすると、部屋の壁紙の模様を「虫がいる!」と誤認したり、夜中にトイレに行ったとき、電気がついていないと、その薄暗い空間に「誰かいる!」と訴えることもあります。
このような症状への対応方法として、夜になっても部屋やトイレをできるだけ明るくしてあげることも有効です。部屋の中であれば、天井の照明が切れた後も、ライトスタンドなどを置いてあげて、枕もとを明るくしてあげたり、トイレの電気は点けっぱなしにしておく、廊下などにも足元を照らす照明をつけてあげるなどをするだけでも、不安や混乱を解消することにつながることもあります。
異食(食べてはいけないものを食べる)への対応方法
洗剤や紙製品、乾電池など、食べても良いものとダメなものの区別がつかなくなり、簡単に口に入れてしまう症状が異食です。
液体洗剤などを、家族の目の届かないところで飲んでしまった場合には、飲んだばかりの時にすぐ発見できれば、大きな孤児にはなりませんが、時間が経過していた場合には、救急車を呼んで、最悪長期間の入院を必要とすることにもつながりかねないのも、この異食と言う症状の怖いところです。
液体洗剤などの管理は厳重にする!
普段、台所や洗面台に置いてある液体洗剤や固形石鹸などを、「飲み物や飴」と認識して簡単に口に入れてしまいまうのも、この異食という症状です。
手洗い石鹸ぐらいであれば、口の中から吐き出させるぐらいで済みますが、洗濯用の漂白剤や、食器用洗剤などの、酸性洗剤などを口に入れて、それが胃に入ると、大事故になりかねません。このような事故を未然に防ぐためにも、面倒がらずに洗剤などは目の届かない場所に保管することが大事です。
できるだけ目の届く場所で見守る
洗剤以外にも、本人が興味を示せばなんでも口に入れてしまうのがこの異食と言う症状です。テーブルに飾っておいた草花、洗面台に置いてあるペーパータオル、衣類用の乾燥材などは飴やお菓子と誤飲されやすいものの1つです。
いつどこで、何を口に入れてしまうのかわからないので、家の中にある危険の可能性のあるものを全て本人の目の届かない場所に隠すのが理想ですが、それを行うこともとても負担が大きなことでもあります。このように、いつ何を食べるかわからないことを未然に防ぐ最も有効な手段は、「できるだけ家族や介護者の目の届く場所に本人がいる」これに尽きます。
徘徊への対応方法
今、自分のいる場所がわからなくなり、外に出たら、元の場所(家など)へ1人では戻れなくなる事や、過去の現在の記憶を整理することができず、「会社に行ってくる」「家(昔住んでいた場所)に帰る」などと言って、突然外に出てしまう症状を徘徊と言います。
外に出ないように玄関などに厳重に鍵をかけたりすると、外に出られないストレスから家族に対して暴力行為を行うなど、対応する家族の負担が大きい症状でもあります。では、この徘徊への対応方法について解説してみようと思います。
「会社に行ってくる!」などと、昔のことを言いだしたときには・・・
今の自分と過去の自分の記憶が混雑し、もう、会社を定年して数年が経っているのにかかわらず、朝になったら突然「そろそろ会社に行く時間だ!」などと外に出ようとしたときには、「今日は会社は休みですよ」「今日は有給休暇をとって出かける日だったでしょう」などと、上手くかわしてあげるのも有効な対応方法です。
このときに絶対にNGなのは、「もうとっくに会社は定年したでしょう!」などと、相手の言い分を否定しないでください。訴えている本人は、認知症の症状によって記憶が整理できず、真剣に訴えていますから、これを否定することは混乱や不安を増長させる要因ともなります。
また、何を言っても外に出ようとしたときには、「出かける準備をしますからちょっと待って」などと言って、相手の気をそらすような試みも有効です。
認知症の症状の1つに短期記憶の障害と言うものがあって、ついさっきの出来事をすぐに忘れてしまうというものがあります。これを上手く利用して、相手の考えを別のものへと向けることで、出かけようとしていた相手を、別の出来事へと誘導するのも徘徊に対する有効な対応方法でもあります。
外に出たら1人で家に帰ってこれなくなってしまったら・・・
これは、過去と現在の記憶を頭で整理できなくなる見当識障害という認知症の症状によって起こる症状です。
外に出てみたものの、道の途中で、自分がどこにいるのかわからなくなり、何とか帰り道を探そうとした結果、まったく見当違いの場所に行ってしまった結果、交通事故に遭遇したり、夏場であれば熱中症などで倒れたりする例も多くみられるようです。
このような症状に対応する方法としては、最も簡単な方法が、家の玄関や裏口のカギを厳重にするのが最も簡単な対応方法ですが、こういった症状が出た場合、相手の行動を抑制するような対応を行うことが、逆に相手の不満や混乱を招く原因ともなることもありあります。
ではどのように対応すればよいのかですが、日中はできるだけ本人の近くにいて、見守ってあげることがもっとも有効な対応ですが、家事などで忙しい日中、ずっと本人の近くにいることも難しいでしょうし、仕事を持っている家族であれば、なおのことでしょう。そんな時にはぜひ、近隣の地域包括支援センターに相談してみてください。
※ここで家の近所の地域包括支援センターが探せます
地域包括支援センターでは、徘徊ネットワークという地域で行方不明になってしまう可能性を持っている高齢者や、行方不明高齢者が出た場合に、市区町村や地域警察などと連携し、早期の発見に努める役割を持っています。
また、行方不明になってしまったときに備えて、本人の衣類や靴に、住所や氏名を記載しておくことや、GPS機能を持った携帯電話などを絶えず身に着けさせることも、外に出てしまい、行方がわからなくなった時には有効な対応方法でもあります。
中核症状や周辺症状で困ったときは‟ここ”に相談してみる!
ここまで、中核症状や周辺症状ではどのような症状があらわれるのか、また、症状があらわれたときには、どのように対応すればよいのか、事例など交えながら解説してきました。
様々な症状の特徴を知り、適切な対応方法を知っていただくことは、日々お世話をするご家族の負担を軽減することにつながりますが、それでも、「どうしたらもっとうまく接することができるのだろう・・・」「毎日頑張っているけど、正直ツライ・・・」このように、日々お世話をされている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
そのような、対応する方法に悩んだ時、介護でのストレスが溜まったとき、介護で抱えてる課題や問題を解決したいとき、介護されている方の強い味方になってくれる場所があることをご存知でしょうか?
認知症介護の相談・駆け込み寺が地域包括支援センター
介護での悩み事や、高齢者に関わる様々な問題について、介護保険という制度で地域の相談窓口として設置されているのが地域包括支援センターという場所です。
地域包括支援センターには、介護保険という制度を熟知したケアマネジャーやケアマネジャーとして5年以上の経験を持つ主任ケアマネジャー、介護や社会福祉についての専門知識を持つ社会福祉士、そして医療の専門知識を持つ看護師が配置されていて、認知症介護で対応に困ったときや悩んだ時、介護への対応方法や、介護する人への助言などを行ってくれます。
また、介護サービスの利用方法や、利用するための手続き、老人ホームなどを探す際には、近隣の施設の空き情報や利用料金など、介護全般にわたって相談にのってくれますので、介護で困ったとき、悩んだ時には、一度電話で相談してみると良いでしょう。また、電話での相談以外にも、実際に介護をされている自宅へも無料で来てくれます。
認知症の専門医に相談してみる
夜になってもなかなか寝付いてくれず、家の中をウロウロしたり、些細なことですぐに怒り出すなど、認知症による症状への対応に苦慮した時、専門医に診察をしてもらうことで、症状を緩和するための処方をしてもらえたり、必要に応じて、より専門知識を持った医師を紹介してもらうこともできます。
受診の際には、できるだけ、今認知症の介護で困っていることや、本人の日々の様子などをできるだけ詳しく医師へ伝えると、より的確な診察を行ってもらえますので、普段から、困ったことや苦慮した内容を、メモ書きなどに残しておくと良いでしょう。
診察をしてもらい、本人の症状に合った処方をしてもらうことで、夜の不眠が改善されたり、興奮を抑えたりできる場合もありますので、介護される方のストレスや負担が大きくならないうちに、専門医へ早めに受診しておくことも、認知症介護を続けるうえではとても大事なことでもあります。
また、専門医への受診は、定期的に行うことで症状の進行に応じた処方や診察をしてもらえますので、対応に困ったときだけではなく、できるだけ定期的に診察を受けることをおススメします。
周辺症状・中核症状について‟まとめ”
ここまで、認知症の症状で代表的な症状である、中核症状と周辺症状という2つの症状について、症状の特徴や発症する原因、発症した際の対応方法などについて解説してきました。
中核症状では、認知症を発症した人の大多数が発症する症状で、記憶を保存したり、思い出したりする働きをする脳の器官である、海馬と言う器官に障害が起こることによって、今日の日付や時間がわからなくなったり、思いさせなくなる。人の名前が出てこなくなったり、家族との会話を交わす中で、考えていることを上手く言葉に出せなくなるなどが起こります。
このような症状は、認知症を発症した初期に多くみられる症状であり、本人にも「忘れてしまった」「思い出せなくなった」という自覚が残っているものが多いために、対応する家族や介護者も、工夫や配慮を行うことで、発症後も在宅での生活を継続することが可能です。
それに対して周辺症状では、中核症状を発症したことや本人の置かれている環境などが影響することにより、家族や介護者に対して、暴言や暴力行為が起こったり、ありもしないことを何度も訴える妄想や、一般的には見えないものを「見える」「誰かがいる」などと訴えるなどがあります。
介護者が対応に苦慮する症状が多くみられ、介護する家族の負担も大きく、発症している本人の混乱や精神的疲労なども大きく、日常生活を継続することも困難になるケースが多いのも、この周辺症状の特徴でもあります。
このように、周辺症状や中核症状には色々な症状があり、対応する方法にも様々なものがありますが、家族だけでの対応に苦慮した時には、介護の専門家である、地域包括支援センターや、認知症の専門医などの助けを得る方法もあります。
今回ここまでお伝えしてきた内容が、認知症介護に日々奮闘されているご家族にとって、少しでも負担軽減のお役に立てることができましたら幸いです。
最後までお付き合いくださりありがとうございました。